『マイナス金利政策で庶民の不平不満は?』(20140414)
謙二君が恐れるものには、順番があって、
「地震、雷、火事、親父」で世間と同じであるといっていい。
わたしがどうして親父が怖いのかと聞くと、謙二君は、
「うちの親父は怒ると雷を落とすからだ」と言う。
そうかそれはやっぱり世間と同じだな。
世間でも正しくは、
「親父」は「親父の怒り」のことを言うのだ。
つまり、
「地震、雷、火事、親父の怒り」なのだ。
ともかくわたしも地震は怖いが、では雷火事親父と来て次になにが怖いかというと、やはり人間ではないかと思う。
「人間は長年まじめに修行すれば体から火を出すから、まあ火事にならないまでも火事の恐怖の原因くらいにはなるだろうし、また修行が不十分な修行者は怒り狂って、または方便などといってあえて人を仏の道に向かわせようと考えて迷惑なことに稲光くらいの電光を走らせる」
謙二君は言う。
「じゃあ親父よりふつうの人間のほうが怖くないですか?」
「場合によってはそうだね」とわたし。
「場合によってというのは、どういう場合ですか?」
「いや。場合によっては人間は地震よりも怖いんだと思っているんだ」
「えっ」と謙二君は驚いて言った。「それって意外です。ことわざとは順序が逆です。どういう意味ですか?」
「人間の不平不満が無限にたまると地震くらいは平気で起こすからだよ」
不審げにながめる謙二君にわたしは続けて言った。
「この世界の出来事と人間の心は密接に関連しあっていて、無数にのぼる人間の不平不満がヒマラヤのように高く蓄積してくると地震くらい起きるんだよ」
「無数にのぼる人間の不平不満がヒマラヤのように高く蓄積ですか」と謙二君は少し安心して言った。「まあ何ごともさすがにヒマラヤのように高くは蓄積しませんからね、めったに人間の不平不満なんかで地震は起きませんよ」
「そりゃあそうだ」
謙二君はまた不安顔になって言った。
「でもたまには起きるんですか?」
「そりゃあそうだよ」とわたし、「大きな地震というものはめったに来ない。忘れたころにやってくるのだ。だから怖いのだ」
「そうか、じゃあ人間は楽観的に生きるといいんですか?」
「そうだ。それはいいね!」
「でもうちの父さんさいきん機嫌悪いですよ」
「そう、というのは?」
「さいきんの日銀のマイナス金利とか、おかしくないですか。だってあれ銀行が日銀にお金を預けているんですけど、お金を預けている銀行が日銀に何億円って逆にマイナス金利分だけ利子払っているみたいですよ?」
「う~ん。それはある意味ルール違反みたいなものだからね」
「父さん機嫌悪いといやなんですよ、家の中が、母さんも機嫌悪くなるし」
「今までのルールと逆の事を始めたわけだ。日銀という権力者が」
「雷が落ちるんですよ」
あれは金融の世界だけれど。物質でいえば、物質の世界に反物質を持ってきたようなものか。
謙二君は言った。
「まあでも銀行だけですから、不平不満は猿投山くらいしか高くなりませんから、地震はだいじょうぶですね」
「どうかな」とわたし。「たしかに庶民の利子にはマイナス金利は適用しないとか日銀は言っているけれど」
「そうです」
「でも、きょう日経新聞を読んでいたら、政府が発行する国債はマイナス金利の影響で、すでに借金をする国が利子を受け取っている状況って書いてあったからね」
「えっ。そうなんですか!?」
新発10年国債利回りはマイナス圏で推移し、お金を借りている国がお金を受け取る状況になっている(2014年4月14日日経新聞)
謙二君はスマホに手を出して調べだした。
「ほんとうだ。いま
マイナス0.086%くらいですか…」
「そうだから、借金すればするほど国は儲かるわけだよ。今という低金利の時代0.086%はけっこう大きいよ」
「へ~っ。こんなに、年利0.086%もらえるんですか。1億円借金したら、8万6千円かあ。国の借金だから1億や2億じゃないよ。10兆とか20兆とかじゃないですか。いくらになるんだ?」
「兆なんて天文学的な数字でね。10が12個だよ」
「10の12乗ですから、0.086%ということは、10000000円、つまり、1千万円、え~っ!」
「10兆円借金したら?」
「……わかりません」
「8.6×10の8乗だから」
「もうわからなくなりました」
「8億6千万円」とわたし。「お金を払うのはいやだけれど、もらうのはうれしい借金漬けの国というもので、ふだん日々働きアリのようにはたらいてお金を稼いでごっそり税金を取られながら豆腐一丁がいくらかとか心配しながら家計をやりくりする庶民が、長年明日の老後のためにと貯金できるかできないかで質素に暮らしてほそぼそ貯金を蓄え年金を積み立ててきた世間に対して、顔見世できるこれは政府日銀のマイナス金利政策ではないだろう」
「まったくです」と謙二君はさびしげに言った。「国民の貯金が少しずつ国や日銀に行くんですよね」
「まあたしかに本来銀行が債券の売り買いで稼いだお金が庶民のお金貯金の利子として返ってきていいものが、日銀に取られているわけだからね、たしかに、年金の一部もそうだと思うよ。年金だって債券に投資しているからね。ただしわたしはそれ(マイナス金利)が正しいのか間違っているのかは分からないけれど」
「どうしてですか?」と謙二君は言った。「これじゃあぜったい庶民の不平不満が?」
「世間には顔見世できないマイナス金利政策っだってことはいえる」(正否よりも政府日銀の言うことよりも)
「なるほど」と謙二君は言った。「じゃあ、不平不満はヒマラヤにはならないんですか?」
「まあそれは君の判断に任せるよ」
「お小遣いがどうとか、またきょうも雷が落ちるかも」
「君、お小遣い減らされた?」
「減らされたのは父さんですけど。困るんですよ。マイナス金利っていうのは。家の中に雷が落ちるから」
たとえて物質の世界なら、先ほど述べたように、いままでのわれわれの世界に反物質を持ってきたっていうことだよ。政府日銀は。物質と反物質が出合って消滅し、あとに莫大なエネルギーを残す。
これはたとえ話でSFみたいなもので、気にするな君は未来は明るい、真に受けず日々の暮らし日々の学習にまい進するように。
修行をしてのちに禅を究めたがゆえに高僧は、こういうものはすべて妄想として片付ける。すなわち心の平安を保つのである。すなわち草木国土悉皆成仏の祈りなのである。
記:この日(20140414)夜9時26分ごろ熊本で最大震度7、マグニチュード6.5の巨大地震があって、そのニュースを見ていて書く気になった。