前期の仕事は終わった。有体に言って、先生にケンカを売ってきた生徒はやはり結果が悪くなるのだった。お世辞でも先生と仲良くしようとする生徒、和気あいあいと授業にのっていく生徒などはうまくやっていけるものだ。
無言でこっそり教室から消えてしまう悪いやつがいたら、
「あいつもう帰っちゃいましたよ!」とか、
先生に見せに来た練習問題の答えが読めないので、
「これ、なんて書いてある?字が汚くて読めないから直すように」
「うん」
「これも読めないから直して」ととにかく二三個あったので指摘したら、
「自分が読めればいい」
「人に見せるものだから他人が見て読めなきゃだめでしょう」
「自分のだから自分が読めればいい」と切れて授業早々(47分で)帰ってしまって欠席になったことが不服で、学校側に文句を言いに行って退出、帰るのかと思たら再び教室にやってきて、先生の横に突っ立っていると、
「あいつまたきた!」などと素直に正しいことを言う生徒はわたしの授業に関してはうまくやっていける傾向がある。
課題を出さないようなクラスはどんどん不可になった。回収した課題はチェックして、未提出者は番号を紙に書いて掲示または教室で回し、生徒に周知してある。そして何しろ課題を出さないと試験は受けれないルールになっている。それでも試験になれば教室に来て試験を受けさせるわけだけれど、いいのか悪いのか、最終日の最終試験のときまで待って、やはり出さない生徒もいる。
クラスによってはとてもたくさんいた。そしてわたしのところに確認に来て、どこそこの課題が出てないと言われると、
「出しました」とか「わたし出した。出したよねえ」とか友達を味方にしようとしたり、「出した出した」とか、かたくなであったり。
先生がレポート提出BOXから回収して収納したその袋に入ってなければないものはないのである。ほかのクラスのBOX入っているものもみんな先生は整理して入れてある。こういう連中はうそつきという。
最後の期末的な試験になって、
「ぼく欠席して課題もらってないんで出せなかったんです」などと寝言みたいなことを言ってくる生徒もいた。
大体そいつが休んだときなど新たな課題などなかったぞ。たまたまなくしたりした生徒がわたしからもらったことはあるものの、
「それでどうして先生のところにもらいに来なかったんだ?」と聞くと、
「先生が『休んだ生徒には課題をあげない』と言ったから」とこれまた聞き捨てならんことを抜かす。
「そんなこと言うわけがないだろ!」
「いや先生はぼくに『休んだ生徒には課題をあげない』と言いました。だからぼくはもらいに行かなかったんです」
「なにを言っているんだ。休んでない生徒にだってあげているのに、休んだ生徒に課題をあげないなんてことがあるわけないだろ」
「じゃあぼくはもう不合格ですか」
黙っておいた。
最終の試験日、人のやった課題を下手なコピーをとってそのまま提出してくる生徒もいるし。あきれたからこれも黙っておいた。
試験は受けていったけれど、この生徒も採点したら点数が不合格である。
「先生はぼくに休んだ生徒には課題をあげないと言いました」などと寝言を言った生徒も試験の点数は不合格だった。
そんなものである。なにが正しくてなにがまちがっているか。人の社会で自分がどうするべきか。自分のわがままを通すためにうそで固めた人生を歩むことができるのか。
今週の最終試験では、一クラス替え玉が来た。
始めはその辺に座っている友達について来ているだけかなと思っていて、試験問題とか配りながら、
「君、どうしてここにいるの?」とさりげなく聞くと、苦笑いして、一つ前の机にいって座って、前を向いている。
生徒の一人が、
「大道」とか小声で言った。
大道?わたくし教師として生徒大道というのはこんなやつじゃないことぐらいよく分かっているのだ。
「君、誰、このクラスの生徒じゃないだろ?」
その生徒また苦笑いしつつもできるだけ表情を変えないように苦労している。
「きょう試験だからさ、君さっさと出て行ってくれる?」
「先生、大道だよ」とまたどこかから声がした。
わたくし問題用紙を配りながら、
「大道?あいつはもう欠席四回だしさいきんぜんぜん来てないからアウトだよ」
わたしはまだ席についているその替え玉さんに、
「君この授業の生徒じゃないだろ、名前は、それともここで試験受けていくの、そうじゃなかったらさっさと出て行ってくれる?」
こうして先生は教育にエネルギーを注ぎ生徒は大人になっていくというべきだろうか。豆腐二丁、トマト二個、もやし、保冷用氷二袋などをもってバス停まで歩いていく。いつも通り早く学校へきて頑張ったので、今年前期はほとんど成績表も完成である。
豆腐二丁、トマト二個、もやし、保冷用氷二袋などをもってバス停まで歩いていく。わたしは時折ひざの痛みを感じながらバスの時間を気にしながら歩いていく。
バス停のイチョウには何か鳥がたくさん群がっている。
注:替え玉生徒が「一つ前の机にいって座って、前を向いている」というのは、あとで「そういうことか」と分かったけれど、生徒の誰かが、わたしの授業は試験の時は生徒を離して着席させる慣わしであることを替え玉さんに告げたのである。